高齢者身体機能データベース

聴覚機能実計測データ

加齢に伴い身体機能は様々な変化を起こし、それにより生活上の不具合が出てきます。聴覚は安全などにかかわる情報入手や他の人とのコミニュケーションの中心となる機能ですが、その機能低下は、本人のみならず周辺の人との関わりにおいてもいろいろな不具合を引き起こす可能性があります。

以下に示した内容は、高齢者の聞こえ方について、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託研究「身体機能データ・ベースの構築に関する調査研究」での実験計測、および当センターが独自に予備検討した際に実計測したものです。

項目 内容・概要 計測方法と計測結果
聴力レベル 聴力の基本機能である周波数別の聴力レベルと、その結果から算出した平均聴力レベルを示しています

高齢者は高音域の音が聞こえにくくなります

高齢者の平均聴力レベルは若年者に比べてばらつきが大きくなります

計測方法 平均聴力レベル (H9 HQL 40人)
平均聴力レベル (H11 NEDO 20人)
平均聴力レベル (H12 NEDO 20人)
音節や言葉の聞き取り能力 言葉の聞き取り能力が周囲の音や、提示する音の大きさによりどのように変わるかを示しています

周囲の音の方が音声より大きいとき、内容の聞き取り率が低くなる高齢者が多くなります

提示される音声が小さいときには、平均聴力レベルが大きい(聞こえにくい)人は単語の聞き取り率が低くなります

計測方法 言葉の聞き取りに及ぼす騒音の影響 (H9 HQL 40人)
単音節明瞭度 (H11 NEDO 20人)
音声の提示方向と聴き取り能力 音声が前から出されたときと後ろから出されたときの聴き取り能力の違いを示しています

聴き取り能力は音声の方向より、大きさの影響を大きく受けました

音声が前から出されたときと後ろから出されたときとでは、間違え方の違いが見られました

計測方法 単音節明瞭度 (H12 NEDO 20人)
建物の残響(響き方)と言葉の聞き取りやすさ 言葉の聴き取り能力が建物(一般の住宅を想定した場合)の響き方によってどのように変わるかを示しています

残響時間が長くなると聴き取り率が低くなる傾向が見られますが、明確に差があるとは言えない程度でした

周囲の音がある場合については、部屋の響き方よりも、周囲の音の大きさによる影響の方が大きいという結果になりました

計測方法 建物の残響と単音節明瞭度 (H12 NEDO 20人)
発声中の聞き取り 声を出しているときに周囲の音声がどの程度聞こえるかを示しています

耳の遠い人は小さな声は全く聞こえませんでしたが、大きな声にすると聞き取り率が向上しました

計測方法 発声中の聞き取り (H11 NEDO 20人)
再生特性による聞き取りやすさ 音声の再生の仕方により聞き取りやすさがどのように変わるかを示しています。実際の音声サンプルで確認することができます

高周波の音をカットした音声は非常に聞き取りにくいことが分かります

計測方法 再生特性による聞き取りやすさ (H11 NEDO 11人)
騒音を伴う作業中に聞き取れる音の大きさ 掃除機を使っているとき、水洗いをしているときにどれくらいの大きさの声であれば内容が分かるかを示しています

音が聞こえてもすぐ内容が分かるわけではなく、内容を聞くためには大きな音にする必要があります

一度聞いた内容は2回目には小さな音でも聞き取ることができます

高齢者は掃除機の騒音は比較的問題が少なかったのですが、水洗いのきは声が聞き取れない人が多く、騒音の種類の影響を受けることが分かりました

計測方法 作業中に聞き取れる音の大きさ (H11 NEDO 20人)
単純な手指作業、複雑な判断作業をしているときの聞き取り 単純な手指作業として押しボタン操作をしているとき、複雑な判断作業としてテレビゲームをしているときに提示した音が聞こえるかどうかを示しています

ほとんどの被験者は押しボタンの時、問題ありませんでしたが、音声により極端に影響を受けた被験者がいました

テレビゲームではゲームの音声を聞きながら判断し、なおかつ音声を聞き取る必要がありますので、高齢者は非常に大きな影響を受けることが分かりました

計測方法 手指作業時の聞き取り (H11 NEDO 20人)
聞こえた音の大きさ感 周波数別に大きさを変えて提示した音について、被験者がその大きさをどのように感じたかを示しています

高齢者は聞こえ始める音のレベルが大きく、聞こえ始めると少し音が大きくなっただけでとてもうるさく感じるようになります

高齢被験者の個人データ(抜粋) (H9 HQL 40人)
テレビの聴取音量 いろいろな番組を見るときに、どれくらいの大きさが聞き取りやすいかを示しています

耳が遠くても意外に小さな音で聞いている人もありますし、良く聞こえる人でも大きな音で聞いていることがあります 番組の種類により傾向が違いますので、番組の影響を受けるように思われます

計測方法 テレビの聴取音量 (H11 NEDO 35人)
報知音の聴感評価 長さと繰り返し回数、音の高さの異なる報知音を提示し、聞き取りやすさ、好ましさ、どのような場面に使用するのがふさわしいかの評価結果を示しています

高齢者は高い音が聞き取りにくいため、高音域では聞き取りやすさ、好ましさとも評価が悪くなっています

短時間1回鳴る音は受付音、少し長い1回鳴る音は途中経過の音、少し長い音が3回繰り返す音は警告音という評価が多くなりました

高齢者は低い音でも少し長い音を3回繰り返すと警告音と感じているようです

計測方法 報知音の聴感評価 (H11 NEDO 20人)
背景音の種類と信号音の聞き取りやすさ 低周波数の領域の方が強い背景音や高周波数領域の方が強い背景音などを用いて周波数の異なる純音の聞き取りやすさを評価した結果(予備検討)を示しています

低周波数領域の方が強い背景音は低い周波数の信号音を聞こえにくくし、高周波数領域の方が強い背景音は高い周波数の信号音を聞こえにくくする傾向が見られました

計測方法 信号音の聴き取りに及ぼす背景音の影響 (H12 NEDO 3人)
純音の周波数と高低感 周波数の異なる純音(サイン波)を2秒間提示し、その音を高いと思うか低いと思うかについての調査結果を示しています

若年者は125Hz~4000Hzまで1オクターブあがるごとにほぼ直線的に高くなっていくと評価しています

高齢者は500Hzまでは高さ感が大きく変わりますが1000Hz~4000Hzでは高さ感がそれ程変わりません

高齢者は1000Hz以上では高い音という範疇の中で差別化をしているため、わずかの周波数の差により違う情報であることを識別させるのには無理があると言えます

計測方法 周波数別の純音の高さ感 (H12 NEDO 20人)
出された純音は先ほど覚えた音と同じか 最初に提示された純音を記憶し、その後、約5秒ごとに提示されてくる純音(10個)が同じかどうかを判断したときの結果を示しています

高齢者は若年者と比べて混同する周波数の幅が広くなっています

低い周波数の純音と比べて高い周波数の純音は混同されやすく、比較的似通った周波数の純音を、異なる信号として使うのは望ましくないと言えます

計測方法 指定音と試験音が同じかどうかの判別 (H12 NEDO 20人)
出された信号音の鳴り方は先ほど覚えた鳴り方のどれと同じか 最初に4種類の鳴り方を記憶し、その後提示されてくる信号音の鳴り方が、何番目の鳴り方と同じであるかを判断したときの結果を示しています

高齢者は若年者より正答率が下がりました

音の出る時間が同じで、出ない時間が変わるパターンの組み合わせは分かりにくいという評価が多く出されました

「ぴぴっぴぴっ」と「ぴっぴっ」のように、明らかに違うパターンの場合は、間違いが少なくなりましたので、1サイクルで出す音の回数を変えたり、鳴る時間の長さを大きく変えたりするなどの工夫が望まれます

計測方法 試験音はどの吹鳴パターンと同じかの判別 (H12 NEDO 20人)
音が聞こえた方向 提示する音の方向を変えたとき(8方向)、提示した方向と、聞こえた方向が一致するかどうかを示しています

左右からの音は間違いにくいですが、周りの音が大きくなると、前後方向の間違いが多くなります

音を提示した方向と聞こえた方向 (H9 HQL 40人)
音の種類と音が聞こえた方向 純音と音声を用いて、前後左右のどちらから音が出ているかを判断し、提示した方向と聞こえた方向が一致するかどうかを示しています

高齢者は間違いが多く、音声と比べて純音は間違いが多くなりました

前後方向に比べて左右方向の間違いは少なくなりますが、左右で聴力レベルが大きく異なる被験者さんの例では、純音で左右方向も間違いが多くなりました

計測方法 音を提示した方向と聞こえた方向 (H12 HQL 20人)
横一列に並んだ音源の特定 横一列に並んだ4個のスピーカのどれから信号音が出されたかを判別した結果を示しています

高齢者は若年者と比べて間違いが多く、座っている位置から離れるにしたがって間違いが多くなる傾向があります

二つのスピーカからほぼ同時に信号音を提示下場合には、信号音が提示されたスピーカの特定と、どちらが高い音であったかの判別間違いが多くなりました

信号音だけで音源を正しく特定するのは困難であるため、ランプなど、他の情報を併用するのが望ましいといえます

計測方法 音源との位置関係と音を提示した位置の判別 (H12 HQL 20人)