建物の残響が聴き取りに及ぼす影響
聴覚特性−平成12年度実験計測−
1.被験者数
全体 男性 女性 20歳代 5 2 3 30歳代 1 1 0 40歳代 1 1 0 50歳代 6 2 4 60歳代 6 3 3 70歳代 1 1 0 合 計 20 10 10
2.計測方法
残響条件、背景音、刺激音レベルを変えて単音節明瞭度を計測した。詳細な計測方法は別紙参照のこと。
3.計測結果
単音節明瞭度への残響時間の影響、単音節明瞭度と4分法聴力レベルの関係を以下の図に示す。
これらの図は、左側が背景音なしで刺激音レベルを変えたとき、右側が刺激音レベル65dBで、背景音レベルを変えたときの結果を示す。
(1)単音節明瞭度への残響時間の影響
(2)単音節明瞭度と4分法聴力レベルの関係
計測結果の概要を以下に示す。
1)今回の試験の範囲では、若年齢層、高年齢層共に、残響時間が単音節明瞭度に影響を及ぼすという結論は得られなかった。
2)残響時間Aと残響時間Cとの比較では、残響時間の長い方が正答率が下がるような傾向が見られるが差があるとは言い難い。背景音が加わってもその傾向は変わらなかった。
3)日常生活では建築空間の残響時間が長いことにより、音声の聴き取りに支障をきたすという現象は明らかであり、今回の試験条件の範囲の残響時間の変化ではその影響が出ないのか、あるいは、単音節明瞭度という指標では残響時間の影響を評価することができないのか、今後に残された課題である。
4)残響の影響を評価するための設備および手続きで留意すべき事項を以下に示す。
○試験室は残響条件が調節できる空間条件を備えていること。(一般住宅で調節を試みたが、天井高さ不足のため3条件の設定ができなかった)
○被験者耳位置において部屋からの拡散音が影響するように、スピーカと被験者の距離が確保されていること。
○被験者に提示する試験音の音圧レベルは、残響条件を変えるとその影響により変化する。したがって、試験音の音圧レベルが同じ試験であっても、残響条件を変えた場合には、音圧レベルの調整が必要となる。
5)残響の影響について数百人以上の規模の計測を行う場合、次のような課題がある。
○残響の影響評価をするための指標を今後の検討により確立する必要がある。
○試験室空間の残響条件調節による方法は試験室確保の問題があるため、電気的に残響を付与した音声を用いる方法になると思われるが、その場合には、今回の方法との比較検討を行う必要がある。
○電気的に残響を付与した試験音を音場で提示すると、提示した空間の残響条件が加味されるため好ましくない。したがって、ヘッドホン受聴による計測となると思われるが、ヘッドホン受聴による書き取りテストの場合、被験者に対する心理的・物理的な負担軽減について検討する必要がある。