高齢者のIT利用特性データベース
認知特性
■ 照合・探索実験(同一探索能力試験、カテゴリ探索能力試験)
■計測目的と計測内容
人がある機器を操作する場合、情報の照合と探索を常に行い、判断をし、操作がすすめられる。探索とは先にある情報が提示され、引き続いて提示された複数の情報の中から応答すべきものを探して選ぶことを指す。代表的な探索には同一探索とカテゴリー探索がある。 同一探索は、第1の情報と複数ある情報の中の1つである第2の情報が物理的に同じか否かの判断を必要とする。第1の情報はすでに処理を終わって作業記憶に保持され,応答時間は複数の情報提示から測る。認知システムでは、1つの情報と照合する際に、2つの情報が同一かどうかを「照合」、「運動の決定」という2段階の認知時間が必要となる。それが、物理的に同一のものが見つかるまで繰り返される。 カテゴリ探索は、第1の情報と複数ある情報の中の1つである第2の情報のカテゴリが同じか否かの判断を必要とする。第1の情報はすでに処理を終わって作業記憶に保持され,応答時間は複数の情報提示から測る。認知システムでは、1つの情報と照合する際に、長期記憶を活性化して第2の提示情報の名前を再認し、長期記憶を活性化してそれが属するカテゴリを検索、2つの情報のカテゴリを照合、運動の決定という4段階の認知時間が必要となる。それが、カテゴリが同一のものが見つかるまで繰り返される。
中若年者と高齢者の探索力の違いを確認し、どのようなデザイン要素に対して探索力が影響しているかを明らかにすることを目的に、比較的短時間内での操作を想定し、探索力に関する実験を行った。 被験者は若年者13名、高齢者15名である。
■計測手順
・同一探索能力試験
実験開始時点において記憶させる文字列とスタートボタン、ホームポジションが表示される。文字列を記憶した後、スタートボタンを押すと、縦10行×横6列(合計60)の文字列が一挙に表示され、その中で先に記憶した文字列と同じ文字列を指示する。指示するべき文字列は1個だけであり、正しいものを押さないと先には進めないようになっている。また画面上の文字列を指示する以外は、ホームポジションに指を接触させておく。ここで使用した文字列の一部を別表に示す。この操作を、記憶する文字列を変更して25回行う。複数の文字列が提示されてから2分以内に同一のものを見つけられなかった場合は、時間切れとなり次のタスクに変わる。
・カテゴリ探索能力試験
実験開始時点において記憶させる単語とスタートボタン、ホームポジションが表示される。単語を記憶した後、スタートボタンを押すと、縦10行×横6列(合計60)の単語が一挙に表示され、その中で先に記憶した単語と同じカテゴリの単語を指示する。指示するべき単語は1個だけであり、正しいものを押さないと先には進めないようになっている。また画面上の単語を指示する以外は、ホームポジションに指を接触させておく。ここで使用した単語の一部を別表に示す。この操作を、記憶する単語を変更して10回行う。複数の文字列が提示されてから2分以内に同じカテゴリのものを見つけられなかった場合は、時間切れとなり次のタスクに変わる。
■計測条件・環境
被験者にタッチパネルが固定された高さ700mmのラックに対して真っ直ぐ立たせ、作業がしやすいように足元に台を置き、高さが調節できるようにした。実験は外部からの雑音を防ぐため出入りのない防音室で行った。
■計測結果
ターゲット探索時間
・同一探索能力試験
画面に文字が複数提示されてから、ホームポジションから指を離すまでの時間を探索時間とした。ホームポジションから指を離してから、ターゲットを押すまでの時間が長い場合は、その間にも探索をしているとみなされ正確なデータがとれないため無効とした。また、不正解だった場合などで、いったんホームポジションに戻らずにターゲットを押した場合も、正確な探索時間がわからないため無効とした。若年者の平均探索時間が6.63(秒)であったのに対し、高齢者の平均探索時間は8.79(秒)であった。若年者に比べて高齢者は探索時間のばらつきが大きかった。若年者は一人一人の平均探索時間にあまり差がなく、データのばらつきも少ない。それに対し、高齢者は平均探索時間に差があり、データに大きなばらつきがある。
・カテゴリ探索能力試験
若年者の平均探索時間が12.9(秒)、高齢者は17.9(秒)であった。若年者に比べて高齢者は探索時間のばらつきが大きかった。
正答率
・同一探索能力試験
画面上で、記憶した文字と同じ文字以外を押した場合を誤操作とした。反応してホームポジションから指を離したが、画面上の文字を押さずにホームポジションに戻った場合は未然エラーとして誤操作には含んでいない。若年者の正答率は99.1%、高齢者の正答率は97.2%と高かった。未然エラー率は、若年者が3.6%、高齢者が2.8%であった。 被験者別に比較すると、若年者では正答率にほとんど差がないのに対し、高齢者は少し個人差が見られた。また、未然エラー率も若年者と比べて高齢者のほうが個人差が見られた。
・カテゴリ探索能力試験
若年者の正答率は82.4%、高齢者の正答率は76.3%となり、高齢者は若年者よりも正答率が6.1%大きかった。また、未然エラー率は、若年者が0.7%、高齢者が4.6%となり、高齢者のほうが3.9%大きかった。 被験者別に比較すると、若年者、高齢者ともに個人差が見られたが、高齢者のほうが大きい。未然エラー率も若年者と比べて高齢者の方に個人差が大きい。
照合・探索実験の全体を通して誤操作は主にカテゴリを選択するものに多い傾向があった。これは、同一のものを選択するときと比べて、応答する際に決定的となる要素にかけているからである。特に高齢者に誤操作率が高い人が多いのは、自分が持っているイメージと違うイメージのものがカテゴリになっていた場合でも、自分の意見をそのまま通そうとする人が多いからではないかと考えられる。
以上のことをまとめると、
1.高齢者は認知にかかる時間の個人差が大きい。 2.サイクルが少ない場合は認知にかかる時間は若年者との差が少ない。 3.サイクルが多くなるにつれて、認知にかかる時間は若年者と差が広がる。 4.探索にかかる時間に、距離、場所は影響しない。
したがって、高齢者は単純な認知しか必要としない操作ならば、認知プロセスにかかる時間は若年者とほとんど変わらない。しかし、操作が複雑化していくと、徐々に認知プロセス時間が増加していき、若年者との差が広がっていくと推測される。ゆえに、機器操作や画面設計を単純にすればするほど、認知に関係する高齢者と若年者の差は少なくなり、操作性がよくなると推測される。