高齢者のIT利用特性データベース
様々な入力デバイスと操作性
■ マウス入力
■計測目的と計測内容
高齢者では、身体機能,認知機能などにおいて加齢の影響による機能低下が考えられ、若年者と同様の入力インターフェイスの使用が適切であるかどうかを明らかにすることを目的として、さまざまな入力デバイスを用いた実験を行った。 マウス入力では、各年齢層におけるマウス操作の特徴を明らかにすることを目的として、若年者、中高年、高齢者の3つの年齢層について、マウス操作における困難さの度合いを変化させ、それに対する作業時間(ポインティング時間)を計測した。 被験者は、若年者(20~29歳)17名、中高年(50~59歳)15名、高齢者(65歳以上)17名の計49名である。
■計測手順
十字のスタート位置にマウスポインタが表示され、別の場所にターゲット(正方形)が表示される。このときはマウスポインタがスタート位置に固定されているため、被験者にはマウスを動かしやすい位置に直させる。マウスの左ボタンをクリックすると計測開始となり、ターゲット内にマウスポインタを動かして再びクリックした時点で計測が終了する。これを1試行とする。1秒後に次のターゲットが提示される。マウスポインタは自動的にスタート位置に移動する。1回の実験では全ての実験条件がランダムに提示される。例えば、ターゲット条件がデフォルトの状態であれば、4×4×13 = 208 試行全てが終了した時点で〔実験終了〕ダイアログボックスが表示され、〔OK〕ボタンをクリックして1回の実験が終了となる。
■計測条件・環境
ターゲット形状は全て正方形とする。
マウス操作における作業の困難さを変化させる要因として、以下の3つを設定した。
①ターゲットの大きさ:【4種類】
30×30、40×40、50×50、60×60(pixels2)
②ターゲットまでの距離:【4種類】
300、420、540、660(pixels)
③ターゲットへの接近角度:【13種類】
0,15,30,45,60,75,90,105,120,135,150,165,180(°) 一人当たり、4×4×13 = 208 試行行った。
マウスポインティング実験プログラムは以下の通りである。
1)開発環境
Microsoft Visual C++ ver.6.0 (OS: Microsoft Windows 98 SE)
2)動作環境
Microsoft Windows 95, Windows 98, Windows 98 SE, Windows NT 4.0, Windows 2000において動作確認済み。
3)プログラムの起動
プログラム(Mouse_exp.exe)のアイコンをダブルクリックすることにより起動する。
■計測結果
ポインティング時間とエラー率について、高齢者の特徴として、次のことが言える。
1)他の年齢層に比べてポインティング作業に時間がかかる。
2)ターゲットへの距離が長くなったり、ターゲットの大きさが小さくなるほど、すなわちポインティング作業の困難度が増加するほどエラー率が高くなる。
3)左方向へのポインティング作業に時間がかかり、エラー率も急増する。すなわち、左方向へのポインティング作業を苦手とする傾向が認められる。
移動軌跡データを元にして、ポインタの移動軌跡長、ポインタ移動中の最大移動速度および平均移動速度を算出した。 移動軌跡長では、ターゲットまでの距離、ターゲットの大きさ、ターゲットへの接近角度のいずれにおいても、若年者の軌跡長が最も短く、高齢者の軌跡長は最も長いことが分かった。 最大移動速度では、ターゲットの大きさに関しては各年齢層において最大移動速度に差は認められず、ほぼ一定であった。 ターゲットへの接近角度に関しては、接近角度0°から最大移動速度が減少していき、90°で最小となり、再び増加する傾向が認められる。この傾向は、高齢者は、若年者、中高年ほど顕著ではなかった。ターゲットまでの距離、ターゲットの大きさ、ターゲットへの接近角度のいずれにおいても、若年者の最大移動速度が最も大きく、高齢者は最も小さい。 平均移動速度では、ターゲットまでの距離、ターゲットの大きさ、ターゲットへの接近角度のいずれの要因においても、若年者の平均移動速度が最も大きく、高齢者は最も小さい。