生活視力の計測
視覚機能−平成9年度 HQL420人計測−
1.目的
日常生活と同様の矯正条件での視力(生活視力)を計測する。
この計測では、日常生活状態での見え方を計測するため、普段矯正具を使用している被験者はその矯正具を使用して、また矯正具を使用していない被験者は矯正なしで視力計測を行った。また、矯正具は持参された状態のまま計測に使用し、検査終了後洗浄して度数計測を行った。
2.計測条件
この計測では、距離、明るさ、コントラストに着目した計測を行うこととし、計測条件は日常生活状態での見え方等を想定して設定した。
明るさは一般作業場の1000lx、一般家庭屋内の100lx、屋内の薄暗い場所の10lxの3種類とし、照明装置には高演色性の蛍光灯を用い、反射光による視力計測を行った。
視標の印刷黒色濃度と背景とのコントラストについては、平成8年度「身体機能データ・ベースの構築に関する調査研究」報告書によれば、色文字の場合、輝度コントラストが同等の灰色の場合と同じ視力になる。これに基づき本計測においては、ほぼ各色の輝度コントラストに相当する黒色濃度の視標を作成した。なお、白背景および黒背景に対して各色を用いた場合の視力は、次表に示す黒色濃度の視標を用いて計測した場合の視力にほぼ相当する。
表 色文字に相当する視標黒色濃度
色 背景色:白 背景色:黒 黄 15% 15% 赤 55% 55% 緑 55% 55% 青 55% 55%
視距離は測定場所等の関係から遠距離は3m、近距離は30cmに固定した。
生活視力に加えて、他の計測結果とのリファレンスとするために裸眼視力を計測することとし、生活視力等の計測条件を次表のように設定した。
表 生活視力計測条件
視距離 視標面照度 視標のコントラスト 矯正条件 3 m 1000 lx 白背景−視標黒色濃度 100% 生活視力(両眼) 3 m 1000 lx 白背景−視標黒色濃度 55% 生活視力(両眼) 3 m 1000 lx 白背景−視標黒色濃度 35% 生活視力(両眼) 3 m 1000 lx 白背景−視標黒色濃度 15% 生活視力(両眼) 3 m 1000 lx 黒背景−視標黒色濃度 55% 生活視力(両眼) 3 m 1000 lx 黒背景−視標黒色濃度 35% 生活視力(両眼) 3 m 1000 lx 黒背景−視標黒色濃度 15% 生活視力(両眼) 3 m 1000 lx 黒背景−視標黒色濃度 0% 生活視力(両眼) 3 m 1000 lx 白背景−視標黒色濃度 100% 生活視力(右眼) 3 m 1000 lx 白背景−視標黒色濃度 100% 生活視力(左眼) 3 m 1000 lx 白背景−視標黒色濃度 100% 裸眼視力(両眼) 3 m 1000 lx 白背景−視標黒色濃度 100% 裸眼視力(右眼) 3 m 1000 lx 白背景−視標黒色濃度 100% 裸眼視力(左眼) 3 m 100 lx 白背景−視標黒色濃度 100% 生活視力(両眼) 3 m 10 lx 白背景−視標黒色濃度 100% 生活視力(両眼) 30cm 1000 lx 白背景−視標黒色濃度 100% 生活視力(両眼) 30cm 1000 lx 白背景−視標黒色濃度 55% 生活視力(両眼) 30cm 1000 lx 白背景−視標黒色濃度 35% 生活視力(両眼) 30cm 1000 lx 白背景−視標黒色濃度 15% 生活視力(両眼) 30cm 1000 lx 黒背景−視標黒色濃度 55% 生活視力(両眼) 30cm 1000 lx 黒背景−視標黒色濃度 35% 生活視力(両眼) 30cm 1000 lx 黒背景−視標黒色濃度 15% 生活視力(両眼) 30cm 1000 lx 黒背景−視標黒色濃度 0% 生活視力(両眼) 30cm 1000 lx 白背景−視標黒色濃度 100% 生活視力(右眼) 30cm 1000 lx 白背景−視標黒色濃度 100% 生活視力(左眼) 30cm 1000 lx 白背景−視標黒色濃度 100% 裸眼視力(両眼) 30cm 1000 lx 白背景−視標黒色濃度 100% 裸眼視力(右眼) 30cm 1000 lx 白背景−視標黒色濃度 100% 裸眼視力(左眼) 30cm 100 lx 白背景−視標黒色濃度 100% 生活視力(両眼) 30cm 10 lx 白背景−視標黒色濃度 100% 生活視力(両眼)
3.計測装置
視標は上下左右に切れ目のあるランドルト環で、計測可能な視力範囲は3m視力が0.1~3.0、30cm視力が0.1~1.5である。図に3m視力計測用視標(一部)を示す。
図 3m視力計測用視標(一部)
環境照明には蛍光灯(3m視力用:松下電工(株)製FHR32EX相当品、30cm視力用:松下電工(株)製FLR40S・EX相当品)を使用し、1000lxの照度調節は電圧調整で行い、100lx、10lxへの調整は、目的照度が得られるように開孔率を調整したカバーを取り付けて行った。図に照度調節用カバーのイメージを示す。
図 照度調節用カバー(イメージ)
計測室は組み立て式暗室(2000mm(W)×4000mm(D)×2000mm(H))で作製した。
3m視力計測では視標面と被験者の目の間隔が3mとなる位置に椅子を置き、視標の中央がほぼ目の高さになるように高さを調節した。
30cm視力計測では視標面と目の間隔が30cmになるように視標の設置位置を定め、読みとる視標の高さと目の高さがほぼ等しくなるよう、計測中に視標全体を上下するようにしている。計測室の配置を次の図に示す。
図 3m視力計測室配置図
図 30cm視力計測室配置図
4.計測方法
(1)測定手順
・1000lxの測定 → 2分間の順応 → 100lxの測定 → 2分間の順応 → 10lxの測定
・視標は3種類あるので、適宜取り替えながら計測する。
・生活視力の右眼、左眼視力、および裸眼の視力は照度変更の直前に計測する。
(2)1000lx生活視力の測定
・被験者の位置、使用矯正具を確認する。
・2分間の順応を兼ねて計測前の教示を行う。
・視標を視標掲示パネルのフックに取り付け、一番手前にある視標から読んでもらう。
・判定方法(他の計測でも同じ)
視力0.1のランドルト環を一つ示す。
被験者の回答が正しければ一つ小さいサイズ(0.2)に移る。
回答を間違えるまで繰り返す。
読めない、あるいは間違えた場合は同視力レベルのランドルト環を読んでもらう。
3個以上正解の場合は一回り小さいサイズに移り、同じように繰り返す。
正解が2個以下の場合は一回り大きなサイズに戻る。
正解が3個以上得られる視力を、その被験者の視力値とする。
・結果をデータシートに記録する。
・視標を1枚めくり、同様の計測を行う。
(3)1000lxにおけるその他視力の測定
・生活視力測定後、次の順序でその他視力を測定する。
生活視力と同じ矯正条件での右眼視力 → 左眼視力 → 裸眼両眼視力 → 右眼視力 → 左眼視力
・使用する視標は白背景−ランドルト環黒色濃度100%(以下A視標という)。
・右眼、左眼視力測定の場合は遮眼子で、それぞれ左眼、右眼を圧迫しないように塞ぐ。このとき力が入らないように、塞いだ側の目もあけているように教示する。
(4)照度変化時の生活視力測定
・1000lx視力測定後、次の順序で照度変化時の生活視力を測定する。
生活視力と同じ矯正条件での100lx生活視力 → 10lx生活視力
・照度を変え、2分間順応の後、A視標を用い、100lx生活視力を測定し、記録する。
・引き続き照度を変え、2分間順応の後、A視標を用い、10lx生活視力を測定し、記録する。
(5)終了
・すべての計測が終了しているかを確認し、残っている場合はその項目を測定する。照度条件が異なる場合は計測条件で2分間順応後、測定する。
・被験者に終了を通知する。