NITE 平成13-14年度人間特性計測データ

3.最大発揮力(等尺性収縮)

最大発揮力とは、被験者が全力で発揮した力のことである。

また、関節を曲げたり、伸ばしたりすることなく力を発揮することを等尺性収縮による力という。

 

■計測項目一覧

関節角度定義

 

■計測の目的

手、肘、肩、足、膝、股関節の矢状面*1での等尺性最大発揮力*2の計測を行う。発揮力とモーメントアーム長の計測を行うことで、外部出力トルク*3と関節内トルク*4など、さまざまな結果を算出することができる。

当データベースでは、測定によって得られたモーメントアーム長[cm]と最大発揮力 [N]および人間工学的な見地から関節内トルク [Nm]を公開している。

なお、関節内トルクの算出には、デンプスター係数*5による体節重量補正をおこなった。ただし、手・足関節トルクについては、計測時に得られた自重により、関節内トルクを求めた。

 

*1 人体の側面から投影した面内

*2 関節角度を一定に保った状態での最大発揮力 [N]

*3 測定値から直接算出されるトルク = 最大発揮力 [N] × モーメントアーム [cm]

*4 *3から体格や体重の影響を除いた関節周りのトルク。筋肉が作用した純出力値

*5 Dempster via Miller and Nelson: Biomechanics of Sport, Lea and Febiger, Philadelphia, 1973.

 

■参考規格

以下の記述で角度表示及び計測姿位、運動方向は、日本リハビリテーション医学会の「関節角度表示ならびに測定方法(平成7年4月改正)」に従う。

また、関節点はJIS Z 8500「人間工学 人体寸法測定」に従う。

 

■計測器

a)計測台

 

b)踏力計(定格容量:2KN)

 

c)アンプ

 

 

■装具

a)手関節計測用補助装具

 

 

b)肘関節計測用補助装具

 

 

c)肩関節測定用補助装具

 

 

d)足関節測定用補助装具

 

 

e)膝関節計測用補助装具

 

 

f)股関節計測用補助装具

 

 

■教示にあたっての注意事項

被験者への教示は「息を止めないで、最大の力を出して下さい。」とする。

〔教示にあたっての注意事項〕

我々が計測すべきトルクは、「日常生活で発揮されているトルクの上限」である。これは、製品設計が一般に「限界設計」(最も低コスト化するため、ヒトに限界を強いる設計)が行われ(例えば、公共施設のトイレは、許される範囲内で最低限のスペースに設計する)、従って、設計は「ヒトが、どこまでキビシイ条件に耐えられるか」と言う観点のデータが必要となることによる。

「息を止めない」教示をするのは、安全確保の観点から、怒責作用*による血圧上昇を防止するためである。

*力の発揮時に、息を吸い込んで止める(保持する)ことによって胸圧を上昇させて体幹を固定し、大きな力を発揮しやすくする状態。怒責中は顔面は紅潮し、怒責終了時には筋中に保持されていた大量の静脈血が一気に心臓に環流し、危険な状態となる

 

■計測における注意事項

高齢者を被験者として本計測を実施する場合、発生が予測される事故として、

1) 転倒

2) 血圧上昇

が挙げられる。1)については、計測チーム(基本的に3名以上で構成)の中で、被験者の安全確保に気を配る担当を事前に決定しておき、足下の段差や障害物、更衣の際の転倒等に気を配ることで対応する。2)については、①実験前の「血圧チェック」、②「教示法」と「力を発揮中の被験者の観察」で対応する。

①実験前の血圧チェック

 安全性の判断基準としては、WHOが規定する「高血圧」の基準(収縮期血圧:160mmHg以上、拡張期血圧:95mmHg以上)を参考に、「拡張期血圧が95mmHgを越える場合で、かつ被験者が体調の不良を訴える場合は、計測を中止する。被験者が体調不良を訴えない場合においても、収縮期血圧が160mmHgを越え、または拡張期血圧が95mmHgを越える場合は、被験者の異常に注意しつつ計測を行う。」のが妥当である。

 血圧計測は、被験者の更衣前に行い、血圧の高い被験者はトルク計測実験を中止する。

②「教示法」と「力を発揮中の被験者の観察」

 被験者には「息を止めないで最大の力」を発揮させるが、特に等尺性トルク計測時では怒責作用を回避するため、「息を止めないで力を発揮する」ように強く教示する必要がある。被験者が力を発揮している間、験者は被験者の状態(顔色、呼吸等)に注意し、顔面紅潮等の異常が見られた場合は、被験者に「息を止めない」旨注意するか計測を中止する必要がある。

 

計測結果の生データダウンロード