衣服設計支援のための人間感覚データベース

体温調節能の評価方法

■ 運動能力の影響について

1.被験者の身体特性

表1に被験者の身体特性を示す。身長、体重、皮脂厚、除脂肪体重がほとんど一定で好気的運動能(最大酸素摂取量、VO2max)のみが異なる20-26歳の女性を対象として実験を行った。最大酸素摂取量は、気温25℃、相対湿度50%の人工気候室内で自転車エルゴメータを用い、あらかじめ設定されたペダルの回転速度(60サイクル/ 分)に被験者が追随できないまで負荷を漸増し、その呼気ガス変化より求めた。

 

表1 被験者の身体特性
  身長,cm 体重,kg 除脂肪体重,
kg
皮脂厚,% 最大酸素摂取量,
ml/kg/min
被験者 1 160.0 51.1 39.9 22.0 50.3
被験者 2 161.0 46.4 39.5 14.9 46.7
被験者 3 164.0 54.0 42.3 21.7 45.3
被験者 4 154.3 49.5 37.0 25.3 40.8
被験者 5 162.0 48.8 41.7 14.5 37.1
被験者 6 156.0 49.5 39.5 20.2 35.3

 

・最大酸素摂取量 maximal oxygen uptake (VO2max)
ヒトはエネルギー基質を燃焼させて種々のエネルギー源としているので体内に酸素を摂取できる量が、運動能力(持続力)の一つの目安になる。特に単位時間内に摂取できる最大の酸素量のことを最大酸素摂取量と呼ぶ。

・除脂肪体重 lean body mass
体重から脂肪組織重量を差し引いた重量。

2.実験条件

図1に実験室内の温湿度条件を示す。まず、気温26℃の部屋で60分間、被験者に座位姿勢で安静をとらせ、その後30分かけて、部屋の温度を20℃まで低下させ、その後90分かけて部屋の温度を35℃まで増加させ、その後60分間その温度を維持した。240分間の実験を通して部屋の相対湿度は50%に維持した。

図1 実験室内の温湿度条件

3.測定項目

食道温(熱伝対)、胸部、大腿部の被服内温湿度(温湿度センサー)、前腕部、下腿部の被服内温度(熱伝対)、胸部発汗速度(カプセル法)、皮膚血流(レーザードップラー血流計)、心拍数(心電図)、動脈血圧(ソノメトリック法)によってそれぞれ測定した。

4.実験着衣

表2に被験者の着衣した被服の材質、吸湿率、通気度、重量を示す。

 

表2 実験着衣
  材質 吸湿率
%
通気度
cc/cm2sec
重量
g/㎡
内衣 エステル丸編み 0.6 358 114
中衣 綿100% 通気度大 6.1 143 123

 

5.実験結果

図2は、上から皮膚温、相対湿度、主観的快適温度をそれぞれ示し、左に比較的体力のある被験者(最大酸素摂取量が46.7 ml/ kg)の結果を、右に体力のない被験者(最大酸素摂取量が37.1 ml/ kg)の結果をそれぞれ示す。被服内温度は両者に差はないが、被服内湿度は、体力の劣った被験者で高い傾向を示した。また、-5から+5まで10段階で評価した体力のある被験者は快適温として高い気温を好む傾向にあり、体力の劣った被験者では、低い温度を好む傾向にあることが明らかになった。
図3は、気温35℃の時の相対湿度と最大酸素摂取量との関係を示したものである。図からわかるように体力の両者に負の相関があり、同一の温度負荷で被服内の水蒸気圧が体力のない被験者で高く、体力のある被験者で低いことが明らかとなった。

図2 実験結果

図3 相対湿度と最大酸素摂取量との関係

6.結論

被服の快適性に影響する重要な因子の中に被服内相対湿度がある。本実験結果から、好気的運動能に反比例して被服内相対湿度が低下し、主観的快適温度に影響することが明らかになった。