高齢者対応基盤整備データベース

暗順応

■計測内容

暗順応とは明るいところから暗いところへ入ったときに、暗がりに目が慣れていく状態のことである。日常生活では明るい部屋から暗い廊下に出たり、明るい屋外から暗い屋内に入ったりするといった、ごくありふれた状況でこの現象に遭遇する。ここでは、明るい屋外から建物内に入り、10秒という短時間に、掲示されている文字がどの程度の濃さまで読みとれるかという状況を想定し、計測した。

■計測機器

計測室・照度調節は3m生活視力と同様のものを使用する。

1) 前順応装置

明るいところから暗いところへ入ってきたときの順応条件を計測するため、事前に明るさに目を慣らす操作を行う。これを前順応といい、そのための順応装置の概略構成順応システム制御シーケンスを左図に示す。

この前順応装置の制御システムは以下の考え方に基づいて製作されている。

① 顎台で目の位置を固定し、前面にある明るいスクリーン(フロストアクリル)面(34cm×40cm)を1分間見続けることにより明順応させる。

② スクリーン照射用にはプロジェクターを、また、スクリーン面の輝度調節はプロジェクターとスクリーン面の距離調節もしくはフィルターを使用して行う。

③ スクリーン中央部の輝度計測には輝度計を使用する。

④ 顎台および装置全体の高さ調節ができるよう昇降テーブルを利用する。

⑤ 制御システムにより、被験者がスクリーンを見るときに次第に明るさに目が慣れるようにプロジェクター光量を順次増加させるよう制御し、最大光量を1分間継続した後、プロジェクターの光源電源のみを切断し、視標読みとり許容時間の10秒間が過ぎると視標面照明用の電源を3秒間切断し、計測終了を告知する。なお、プロジェクター冷却用のファンは、装置全体の電源を切るまで作動する。

⑥ 制御シーケンスの初期時間設定は次の通りとする。
T1(待ち時間)       5秒
T2(照度アップ所要時間) 15秒
T3(前順応時間)     60秒
T4(視標読みとり時間)  10秒
T5(終了告知時間)     3秒

2)視標
視標濃度100%、55%、35%、15%のひらがなを上部から下のほうにサイズを変えて配置した視標をオフセット印刷により作成した。最も大きいひらがなのサイズは3m視力の0.1に相当するランドルト環と同じ外径寸法になるように設定している。

■計測条件

計測条件を以下に示す。視距離は3mとする。

前順応 視表面照度 矯正条件 視標濃度
なし 10lx 生活視力(両眼) 15%
35%
55%
100%
あり 10lx 生活視力(両眼) 15%
35%
55%
100%

■計測方法

測定手順

(1) 使用用具として、記録用データシート、暗順応視標、輝度計、照度計、順応時間計測用ストップウオッチを準備する。

(2) 前順応装置の調節

  • プロジェクターおよび制御装置の電源を入れ、パソコンを立ち上げる。
  • 輝度制御ソフトをスタートさせる。
  • 輝度調節モードを選定し、スクリーン中央部の輝度を計測する。
  • プロジェクターの位置調節、またはフィルター選択により、輝度が10000cd/㎡になるよう調節する。
  • 測定モードの条件を設定する。

(3) 視標準備

  • 視標掲示位置表示用のLED電源を入れる。
  • 10lx用照明カバーを用い、視標掲示パネルの照度を10lxに調整する。
  • 視標をボードに固定する。

(4) 被験者が顎台に顎を乗せたことを確認して、前順応装置をスタートさせる。

(5) 前順応の間に視標を取り替える。

(6) 前順応終了後、被験者に声を出してひらがなを上の方から読んでもらい、読みとれた文字の大きさを記録する。

(7) 最も大きい文字が読めなかったときは、条件を変えて再度計測する旨の了解を取る。

(8) 視標を取り外し、視標取り付けボード表面照度を10lx増加して再計測する。(それでも読めないときは10lxずつ明るくしていく。)文字の大きさと明るさを記録する。

被験者への教示

(1) 日のあたる場所から建物の中のような暗い場所に入ると、すぐには周りが見えないことがあります。これは、急に暗くなった環境に目が慣れるのに時間がかかるためにおきる現象です。この測定は文字の濃さをどのようにするとどの程度見やすくなるのかを調べることを目的としています。

  • 正面にひらがなを縦に並べて書いた紙が貼ってあるのがわかりますか。上に赤い小さい明かりがついていますので、目印にしてください。
  • この測定では、右側の装置を使って、まず明るいところに目を慣らし、その後、このひらがなを上の方から読んでいただきます。右側の装置は明るい光を出すようになっています。これを約1分間見ていただいた後、光が急に消えますので、消えたら素早く正面を向いて、声を出しながらひらがなを上の方から順番に読んでください。10秒たつと、ひらがなを照らしている光も消えます。読めたところの文字を記録します。

(2) 入室後、2分以上経過したことを確認して練習を開始する。

  • 実際に測定する前に手順を練習してみます。右側の装置についている顎台に顎を乗せてください。(高さが合わないときは昇降台で高さを調整する。)
  • 目の前の板に斜めの線が付いていますが、測定の時には、この線の交わるあたり、板の中央部を見ていてください。
  • 見ていただく光は大変まぶしく感じると思いますが、真夏の昼間に屋外でご覧になる明るさと同じくらいですので、少しつらいかも知れませんが、目に悪いということはありません。できるだけ目を閉じたり、視線をそらしたりしないで1分間見ていてください。耐えられないようでしたら中止していただいて結構です。
  • 1分経つと光は自動的に消えますので、素早く正面の視標を見て、ひらがなを上の方から順に声を出しながら読んでください。では読んでみてください。(読みとれたひらがなの大きさを「順応なし」に記録する。)
  • 実際の測定は10秒間に読めるところまでを記録しますので、10秒間がどれくらいか実際にやってみます。(視標を取り替える。)「はい」と言ったら、声を出して読んでください。(10秒で読みとれない場合は記録する。)

 

■計測結果

計測年: 2000年

計測人数:

年代 20~29 30~39 40~49 50~59 60~69 70~79 80~ 合計
男性 10 10 10 12 31 30 8 111
女性 11 9 9 14 27 28 3 101
合計 21 19 19 26 58 58 11 212

結果のまとめ:

  • 「前順応なし」、「前順応あり」の両方ともに年代が高くなると読みとれる文字の高さは大きくなる。特に高齢者ではこの傾向が大きい。
  • 若年者に比べて、高齢者は「前順応あり」の場合の視力回復が遅い。
  • 10lxで読みとることができない被験者の割合は、高齢者側において大きくなる。
  • 明るいところから暗いところへ目を移して10秒間で読みとれる文字の大きさについて、高齢者は若年者の約2倍の大きさである

計測結果:

(1) 暗順応計測で読み取れた被験者の割合―照度:10lx―

単位:%
前順応 視標濃度(%) 20代 30代 40代 50代 60代 70代 80代
なし 15 100 100 100 96 97 91 82
35 100 100 100 100 98 93 100
55 100 100 100 100 100 98 100
100 100 100 100 100 100 98 100
あり 15 100 100 100 96 97 91 82
35 100 100 100 96 98 91 82
55 100 100 100 96 100 98 91
100 100 100 100 96 100 98 91

(2) 年代と視標高さの関係

(3) 年代別、視標濃度と視標高さの関係

 

(4) 年齢と暗順応視力の関係

 

■報告書PDF

2000年度 高齢者対応基盤整備研究開発 第2編データベース整備(動態・視聴覚特性)より抜粋p241-350

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