衣服設計支援のための人間感覚データベース

肌着、シャツ、スラックスの評価事例 2.発汗サーマルマネキンを用いた評価結果

(1)発汗サーマルマネキンについて

発汗サーマルマネキン

模擬皮膚: 孔径2mm、ピッチ3mm

模擬皮膚温度: 室温~50℃、精度±0.1℃

模擬皮膚の温度制御: 部位の模擬皮膚裏側
(中心部に白金抵抗体温度センサ設置)

温湿度センサ:20点

熱流計:10点

積算電力量:10部

 
   

発汗の原理

水を入れた飽和槽に乾燥空気を送入して、水蒸気を飽和した空気をマネキン皮膚の小孔から吐出して、気体状の汗(不感蒸泄)を模擬する。汗の温度は飽和槽の水の温度で、発汗量は乾燥空気の流量で、マネキンの皮膚温度はマネキン皮膚加熱ヒータで設定する。

 

(2)発汗サーマルマネキン測定条件

環境室

温度: 30℃

湿度: 50%RH

風:
無風(<0.05m/sec)
有風(0.3m/sec、マネキンに垂直方向)

測定条件

温湿度センサ取り付け位置: 胸前部左上、胸前部左下、腹前部左(3カ所)

入力時間: 30sec間隔

発汗量: 300g/m2/h

衣服の装着: 内衣と中衣(重ね着)

 

(3)測定結果1:無風時の衣服内気候

衣服内温度(Δt)は、衣内温度(t)と環境室温度(ta)との差で示した。
衣服内水蒸気圧(ΔV)は、衣内水蒸気圧(V)と無風無発汗時の衣内水蒸気圧(平均)(Va)との差で示した。
無風状態では、中衣に吸湿性の大きいテンセルを着用した時に衣服内温度が高く、吸湿性の小さいエステルでは衣服内温度の上昇は小さい。
また、無風状態の衣服内水蒸気圧(衣服内湿度)は、中衣に吸湿性の大きいテンセルを着用した時に衣服内水蒸気圧が低く、吸湿性の小さいエステルでは衣服内水蒸気圧が高い。

■ 衣服内温度

■ 衣服内蒸気圧(湿度)

 

(4)測定結果2:有風時の衣服内気候

衣服内温度(Δt)は、衣内温度(t)と環境室温度(ta)との差で示した。
衣服内水蒸気圧(ΔV)は、衣内水蒸気圧(V)と無風無発汗時の衣服内水蒸気圧(平均)(Va)との差で示した。
風による衣服内温度の低下は、衣服内温度は中衣に通気度が小さい綿(通気度小)を着用した時は小さく、通気度が大きくかつ吸湿性のあるテンセルや綿(通気度大)を着用した時には、衣服内温度の低下が大きい。
また、風による衣服内水蒸気圧(衣服内湿度)の低下は中衣の通気度に依存しており、通気度の大きいエステルや綿(通気度大)では衣服内水蒸気圧の低下が大きい。

■ 衣服内温度

■ 衣服内蒸気圧(湿度)

 

(5)測定結果3:まとめ

内衣の通気度は中衣の通気度に比べて2倍以上なので、衣服内温度への風の影響は中衣の違いによると考えられる。
中衣3(綿・通気度小)の通気度は他の中衣の通気度と比べて1/10程度なので、風による衣服内温度の低下は他の中衣と比べて小さい。
同じ程度の通気度(130~160cc/cm2/sec)である3種の中衣については、吸湿性が衣服内温度に影響しており、吸湿性の大きいテンセルでは風による衣服内温度の低下が大きい。これは衣服素材に吸着した水蒸気が風により蒸発するときの、蒸発潜熱のためと考えられる。
すなわち、衣服内温度への風の影響は通気度が主因子であり、同じ程度の通気度では吸湿性が影響している。

風による衣服内水蒸気圧(湿度)の低下は、中衣の通気度が主因子であり、その吸湿性も影響している。
すなわち、通気度が大きく、吸湿性の小さいエステルでは、風による衣服内水蒸気圧の低下が最も大きい。
また、着用する内衣も影響しており、吸湿性がある内衣A(エステル/キュプラ)は、吸湿性の小さいエステルを内衣に着用したときより、風による衣服内水蒸気圧の低下が小さい。

(これらの結果は、発汗、風とも定常状態になった時を想定している。)

 

有風時の衣服内温度:Δtw

Δtw= tw・t
tw:有風発汗時の平均衣服内温度(定常状態の平均温度)
ta:有風発汗時の平均環境室温度

有風時の衣服内水蒸気圧:ΔVw

ΔVw=Vw・Vo
Vw:有風発汗時の平均衣服内水蒸気圧(定常状態の平均温度)
Vo:無風無発汗時の平均衣服内水蒸気圧